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Inside the race to build the best quantum computer on Earth - MITテクノロジーレビュー

グーグルの最先端のコンピューターがあるのは、カリフォルニア州マウンテンビューの本社でも、シリコンバレーの熱気あふれる裏通りでもない。それは、車で数時間南下したサンタバーバラの平凡で無味乾燥なオフィスパークにある。他のテナントは聞いたこともないようなテクノロジー企業だけだ。

開放的なオフィスには、数十の机が置かれている。屋内には自転車ラックがあり、壁から突き出た棚受け金具は指定の「サーフボード置き場」になっている。幅広の二重扉の先にあるのは、大きな教室ほどの広さの研究室だ。そこには、コンピューターのラックやごちゃごちゃした計測器が並ぶ中、ドラム缶より少し大きい円筒形の容器数個が、巨大な鋼鉄のさなぎのように振動減衰装置からぶら下がっている。

その中の1つの外装がはずされ、鋼鉄と真ちゅうの配線が乱雑にはりめぐらされた「シャンデリア」として知られる内部機構がむき出しになっていた。このシャンデリアは、要するに強力な冷蔵庫で、層を重ねるごとに冷却していく。真空状態で、ほぼ絶対零度(マイナス273.15℃)に保たれた底部には、肉眼では普通のシリコンチップのように見えるものがある。だが、そこにあるのはトランジスターではなく、この低温では量子物理学の法則に従う単一原子であるかのように振る舞う極小の超伝導回路がエッチングされている。1つ1つが、量子ビット(キュービット)と呼ばれる、量子コンピューターの基本的な情報を保存する単位だ。

2019年10月下旬、グーグルは量子プロセッサーの1つである「シカモア(Sycamore)」が、古典的なマシンでは実質的に不可能なタスクを実行することで、「量子超越性」を初めて実証したと発表した。グーグルによれば、世界最速のスーパーコンピューターである「サミット(Summit)」では1万年かかる計算を、わずか53キュービットのシカモアが数分で完了したという。グーグルは、この成果をスプートニクの打ち上げやライト兄弟の初飛行にたとえて、現時点で最速のコンピューターがそろばんに見えてしまうようなコンピューターの新時代の幕開けとなる大躍進だと主張している。

サンタバーバラの研究室で開かれた記者会見で、グーグルの開発チームは3時間近くにわたり記者からの質問に明るく答えた。だが、その明るさをもってしても、チームの根底にある緊張感を覆い隠すことはできなかった。発表の2日前に、グーグルの量子コンピューティングの最大のライバルであるIBMの研究者たちが、グーグルの重大な発表にかみついたのだ。IBMはグーグルの研究者の計算が間違っていると非難する論文を発表した。IBMは、サミットがシカモアの計算を再現するには、数千年どころか数日ですむだろうと考えていた。IBMの主張についてどう思うかと尋ねられたとき、グーグルの開発チームのリーダーであるハルトムート・ネヴェン博士は、明らかに直接的な回答を避けた。

これを、単なる学問的論争と見なすこともできるかもしれない。ある意味、実際そうだった。IBMが正しかったとしても、シカモアはサミットの1000倍の速さで計算したことは事実だった。そして、数カ月もあれば、グーグルは少しだけ大型の量子コンピューターを作り、この実験結果が疑う余地のないことを証明しただろう。

だが、IBMによって示された強い異議は、グーグルの実験の成功の達成度が低かったということではなく、そもそも意味のない実験だったということだ。量子コンピューティング業界のほとんどの意見とは異なり、IBMは「量子超越性」が、量子コンピューター技術におけるライト兄弟の飛行実験成功の瞬間だとは考えていない。実際、IBMはそんな瞬間があるとも思っていない。

その代わり、IBMは「量子優位性(Quantum Advantage)」と呼ぶ、まったく異なる成功の尺度を追い求めている。これは単なる言葉の違いや科学の違いではなく、IBMの歴史や文化、大志に根ざした哲学的スタンスである。グーグルやその親会社であるアルファベットが収益を伸ばしているのに対し、この8年間、IBMの売上高と収益がほぼずっと低迷しているという事実もおそらく影響しているだろう。こういった状況や両社の異なる目標が、量子コンピューティング競争でどちらが勝利するかに影響を与えるかもしれない。

隔てられた世界

ニューヨーク市郊外の北部にあるIBMのトーマス・J・ワトソン研究所は、フィンランド人建築家エーロ・サーリネンによるネオフューチャリズムの傑作として知られている。巨大な流線型の建物で、グーグルの何の変哲もない建物とは一線を画している。メインフレーム・コンピューターの大当たりによって1961年に完成したこの建物は、博物館のような作りで、フラクタル幾何学や超伝導体、人工知能(AI)、量子コンピューティングなど、あらゆる分野におけるIBMの躍進を従業員たちに思い起こさせる。

総勢4000人の研究部門を率いるダリオ・ジル研究部長は、スペイン人で、伝道者的な熱意を持って早口で話しかけてくる。2度ほど取材した時にもジル研究部長は、歴史的なマイルストーンを羅列して、IBMが量子コンピューティング関連の研究にどれだけ長く携わってきたかを強調した(タイムラインを参照)。

だが、この数十年間、IBMは研究プロジェクトを商業的な成功につなげられずに苦労してきたことは明らかだ。例えば最近では、米国の人気クイズ番組「ジョパディ!(Jeopardy!)」に出演したIBMの人工知能(AI)「ワトソン(Watson)」を医療用AIに応用し、患者を診断して大量の医療データの傾向を特定しようとしていた。しかし、数十ものヘルスケア関連企業とのパートナーシップを結んだにもかかわらず、ビジネスにつながるようなアプリケーションはほとんどなく、あったとしても結果は芳しくなかった。

IBMのジル研究部長によれば、量子コンピューティング・チームは、研究と事業開発を並行することで、この悪循環を打破しようとしているという。量子コンピューターが動作するようになるとすぐにクラウド上に置き、外部の人がアクセスできるようにしたのはそのためだ。そして、Webブラウザーで動作するドラッグ&ドロップ式のシンプルなインターフェイスでプログラムできるようにした。2016年に始まった「IBM Qエクスペリエンス(IBM Q Experience)」は、現在、5〜53キュービットの大きさの量子コンピューター15台で構成されていて、学術研究者から学校に通う子どもまで月に約1万2000人が利用している。小型の量子コンピューターは無料で利用できる。IBMによれば、すでに100社以上のクライアントが大型の量子コンピューターの使用料(金額は非公表)を支払っているという。

グーグルのシカモアを除けば、こういった世界中のあらゆる量子コンピューターはいずれも、古典的なコンピューターを凌駕できていない。ただし、IBMにとって、今のところそれは重要な …

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