先生は待っている! 中止となった3月の全国高校選抜ハンドボール大会に、東北第2代表として2年連続3度目の出場を決めていた学法福島女子ハンドボール部(福島)が、ビデオ会議システム「Zoom」を利用しながら、合同練習再開の日を待つ。就任6年目の中村広生監督(28)がたった1人で体育館から、自宅待機中の部員たちへの指導を続ける。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、夏の全国総体も中止となり、大きな目標が絶たれた3年生たちも、たくましく前を向いている。

  ◇   ◇   ◇  

がらんとした体育館の片隅から、熱気を帯びた声が響き渡る。「あゆ、もうちょい腰まっすぐ!」「くるみ、ガンバレー!」「おーい、画面に近すぎるぞ」。普段の練習と変わらぬジャージー姿の中村監督は、決して独りぼっちではない。パソコンには必死に練習に取り組む22人の姿が映る。試合さながらに電光掲示板を操作しながら、自ら手本を示し、一緒に汗を流す。メニューが終わるたびに、拍手で「ナイスファイト!」と励ました。

県大会中止の報を受け、4月19日にオンラインでミーティングを開いた。全国総体の中止を覚悟し、涙を流す選手もいた。最大の目標を失ったショックは計り知れなかったが、選手は必死に気持ちを切り替えた。「このチームで全国勝利を目指してきたから本当にさびしい気持ちになった。でも今やれることをやるしかない」(猪腰海紗季、3年)。休校で自宅待機となっていたが、選手は翌20日からの練習再開を要望。「選抜が中止になり、総体を目指して頑張ってきた。自分が3年生だったら練習する気をなくす。本当にすごい子たち」と中村監督はたくましさに感心し、オンライン練習を開始した。

午前9時半から約2時間、補強と体幹トレーニングが中心だが「1人1人、いる場所は違っても同じ時間に集まれる。1人だと自分に甘くなってしまう。みんなで確認しながら、質の高い練習ができている」と阿部愛実主将(3年)。パソコンとネット環境さえ整えばどこからでも交信可能だが、中村監督はあえて体育館にこだわる。「いつでもここに帰ってこい。早く練習できる日が待ち遠しいよな。みんなで集まれる日まで頑張ろう」との思いを込める。後藤唯(3年)は「すごい熱心に指導してくれる。心がブレそうになっても、練習に行けば先生がいるのでついていこうと思える」と強い信頼関係がモチベーションを支えてきた。

阿部主将は昨夏の前十字靱帯(じんたい)断裂に続き、左ひざ半月板損傷からの復帰を目指してきた。「何度も心が折れそうになったけど先生、先輩、仲間に支えられてきた。今は次の大会は見えないけど、もう1回みんなと同じユニホームを着てプレーしたい。みんな今できることを頑張っている。自分も頑張らないと」と気丈に前を向く。入学直後の1年生にも積極的にアドバイスを送り、チーム力アップに余念がない。

選手から送られてくる練習日誌の返信に、中村監督はよく記す言葉がある。「1人だけど1人じゃない」。今後、代替大会が開催されるかは不透明だが、必ず「次」があると全員で信じている。【野上伸悟】

◆中村広生(なかむら・ひろき)1991年(平3)6月25日生まれ、茨城県守谷市出身。高野小1年からスポーツ少年団守谷クラブで競技を始め、小5で日本一。けやき台中で全国中学、ジュニアオリンピック優勝。藤代紫水高では全国総体、全国選抜、国体で準優勝。日体大では2、3年のインカレ優勝。12、14年にビーチハンドボール日本代表。15年2月から学法福島監督に就任。現役時代のポジションは左サイド。保健体育教諭。家族は夫人と1男。目指すチームは「日本一愛されるチーム」。