新型コロナウィルスの感染拡大で活動休止状態にあるモータースポーツ。F1、MotoGP、インディカーなど世界中にテレビ中継を行う国際レースは今後の再開時期、スケジュールの再調整はもちろんだが、休止期間中をどう凌いで行くか知恵を絞っている。
その答えの一つがプロレーサー参戦のテレビゲームによる「eスポーツ」だ。
eスポーツと現実の親和性が高い
ありとあらゆるスポーツイベントが世界中で中止される中で、モータースポーツはどのスポーツよりも早く「eスポーツ」を一つのコンテンツとして活用し始めている。
レースが休止された週末にF1、MotoGP、インディカーが現役のプロレーサーが自宅から参加するバーチャルレースを開催。公式YouTubeチャンネルなどでそれぞれのレースが放送された。
レースの休止決定から僅か1、2週間という早さでこういうオンラインイベントが開催できるのは、モータースポーツとゲームは親和性が高く、現代のレースゲームは現実に近い再現性を持っていることにあるだろう。そして、本物のコクピットのようなドライブ装置を自宅に作り、すぐにオンラインでプレイできるのも特徴だ。
実際に各バーチャルレースのYouTube再生回数を見ても3月30日時点でF1が178万回、MotoGPが42万回、インディカーが21万回と上々だ。
それぞれのチャンネルの中の再生回数と比較すると、明らかにバズったコンテンツになっているのに驚かされる。
F1は現役選手参戦は少なめ
いち早くバーチャルレースの開催を行なったのは「F1世界選手権」だ。オーストラリアGPが開催直前にキャンセルされ、その後のレースも中止または延期が続々と決定する中、本来バーレーンGPが開催される週末に「F1・eスポーツ・バーレーン・バーチャルGP」を実施。
(F1公式YouTubeのバーレーン・バーチャルGP)
このレースには途中から現役F1ドライバーのランド・ノリス(マクラーレン)が参戦し、5位でフィニッシュ。元F1ドライバーのニコ・ヒュルケンベルグやエステバン・グティエレスらも参戦し、熱いバトルを見せて、コンテンツとしてはそこそこ面白いものだった。
コードマスターの「F1 2019」というゲームソフトを使用したF1公式バーチャルレース「フォーミュラ1・Eスポーツシリーズ」が2017年から開催されており、現実のレースができないならバーチャルレースを行う環境はできていたので、こういう企画がすぐに実施できたわけだ。
ただ、今回のレースに参戦した現役F1ドライバーはノリスとニコラス・ラティフィ(ウィリアムズ)だけで、F1を目指す若手やゲーマーが中心となった。
現代ではマックス・フェルスタッペン(レッドブル)やランド・ノリス(マクラーレン)など現役F1ドライバーでありながらEスポーツチームに所属する選手も居るので、もっと多くの現役F1ドライバーが参加すれば面白くなるだろう。
ちなみにフェルスタッペンは別のバーチャルレースに参戦していた。
(マックス・フェルスタッペンのツイッター/3月19日「近いうちにレースに戻れるといいね。それまでの間、自宅でシミュレーターレースで我慢しなきゃ」)
MotoGPは顔出しほのぼの系
バーチャルレースの開催はバイクレースの最高峰「MotoGP」でも開催された。
ヨーロッパではコロナ感染拡大で自宅待機が促されている中で「#StayAtHomeGP」(自宅待機グランプリ)が開催。これにはマルク・マルケス(ホンダ)、マーヴェリック・ビニャーレス(ヤマハ)ら人気MotoGPライダーが10人参戦。プレーステーション4用の公式ゲーム「MotoGP」を使ってバトルを展開した。
(MotoGP公式YouTube/StayAtHomeGP)
F1など4輪レースゲームでは専用のハンドルコントローラーやペダルなどを用意してプレイすることができるが、バイクレースの場合は実物大のバイクを用意してバンクさせることは不可能。全員が手元操作のコントローラーで参戦となった。
自宅ゲーム感がありありな感じだが、トップライダーが自宅で顔出しでプレイする姿が常時映像に映し出される放送に。手元操作という迫力の足りなさを逆手に取り、「自宅で過ごす選手達」を楽しめるというファンにはたまらない演出が良かった。
レースは転倒や接触も続出。ライダー達はまるでバイクに乗るかのように体を傾けたり、好き勝手喋りながらレースを楽しむシーンは普段ではなかなか見られないものだ。
ちなみに4輪に比べるとバイクレースゲームは現実から少し遠いイメージだが、現役MotoGPライダー達はイベントでゲームを提供するといつまでもやり続けるくらい熱中する。
インディカーは本格的な放送に
北米の「インディカー」も開幕戦・セントピーターズバーグの開催直前に非常事態宣言が出され、レースが休止状態になっているが、バーチャルレースの開催を最も本格的に取り入れてきた。
こちらは「iRacing」というパソコンユーザー向けのオンラインレーシングシミュレーターを使ってレースを実施。唯一の日本人ドライバーの佐藤琢磨は参加しなかったものの、アレックス・パロウら新人や今季スポット参戦を予定している選手など若手中心に20人のインディカードライバーが参戦した。
そして放送もインディカーを中継するNBCのコメンタリー陣が集い、インディカーレースの進行でお馴染みの安全祈願のお祈り、アメリカ国歌斉唱まである本格的なもので、このバーチャルレースにはアメリカ赤十字がメインスポンサーに就く「American Red Cross Grand Prix」として行われたのだ(赤十字のCMも入る)。
(インディカー公式YouTube/American Red Cross Grand Prix)
まるで本当のレース中継を見ているかのようなクオリティの高さで、流石はスポーツエンターテイメント大国のアメリカだ。
そして、インディカーはシミュレーターソフトの先駆けとも言える「iRacing」と提携し、現役インディカードライバーが参戦する「Indycar iRacing Challenge」を今回のレースを含む全6戦で開催。レースが再開するまでの間、ファンとのコミュニケーションを「eスポーツ」を通じて行なっていく。
(優勝したセイジ・カラムのツイッター/3月29日「やった!Indycar iRacing Challengeで優勝したよ。みんなでレースができて楽しんで最高だよ。チームとスポンサーにとっても良いスタートになった。みんなが楽しんでくれて来週のレースを待ってくれるといいな」)
このようにF1、MotoGP、インディカーと取り組み方、現役ドライバーの参加割合、テイストは様々だが、普段の映像コンテンツを上回るYouTube再生回数を得ているのは事実で反響は大きい。
あまり本格的にやりすぎるとバーチャルで良いじゃないか、と思われないか心配だが、レースが再開された時に新たなファンの関心を獲得できるかもしれない。
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March 30, 2020 at 03:32PM
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