東京パラリンピック開幕まで２５日であと半年。東京は前回の１９６４年大会に続き、２度目の夏季パラリンピックを開催する初めての都市になる。上皇ご夫妻をはじめとする皇室は、戦後まだ環境が整っていなかった障害者スポーツの振興を支え、パラアスリートに寄り添い、世界への挑戦を見守られてきた。今大会では１９９８年長野冬季パラリンピックに続き、天皇陛下が大会名誉総裁を務められ、令和の皇室と障害者スポーツの関わりにも注目が集まる。（伊藤弘一郎、緒方優子）
「すべての身体障害者の上に、希望と幸福がもたらされることを念願し、この大会があなた方に、楽しく意義あるものになることを望みます」。昭和３９（１９６４）年１１月８日、東京・代々木の織田フィールド（代々木公園陸上競技場）。前回東京大会は名誉総裁を務められた上皇さまのお言葉で幕を開けた。
「上皇ご夫妻は連日のように会場に足を運び、熱心に競技をご覧になった。選手との交流だけでなく、分からないことがあると『どうして今のはファウルなのか』と審判にルールを尋ねるなど勉強されていた」。前回大会で厚生省（当時）の担当者だった井手精一郎氏（９５）がそう振り返る。
日本では障害者スポーツがまだリハビリとして捉えられていた時代。だが、ご夫妻は大会前から開催を強く願われてきた。上皇后さまはイタリアで行われた第１回大会（１９６０年）を観戦した福祉問題研究家から大会の様子を聞き、福祉関係者に伝えられた。「２年後の東京大会はぜひ開催してもらいたい」。３７年８月、上皇さまは英国での障害者スポーツ大会に出場した日本選手と関係者を東宮御所（当時）に招き、激励された。
大会には昭和天皇の后、香淳皇后も臨席。当初、予定になかったお出ましはご夫妻のお招きによるものだった。「（ご夫妻が）いかに参加選手たちを感激させ、われわれ関係者を奮起させたか、はかり知れない」。大会報告書に、運営幹部はそう記している。
日本財団パラリンピックサポートセンターの小倉和夫理事長（８１）によると、大会には日本の傷（しょう）痍（い）軍人も出場していたという。「先の大戦を経験されたご夫妻だからこそ、障害者スポーツへの思いは深かったのだろう」（小倉氏）。
大会で仕事を持つなど海外選手の社会環境に触れた上皇さまは後日、関係者に「このような大会が国内でも毎年行えれば」との期待を口にされる。この言葉が翌年からの全国身体障害者スポーツ大会（現在の全国障害者スポーツ大会、障スポ）開催につながった。
一方、平成８～１９年、最側近の侍従長を務めた渡辺允氏（８３）は「むしろ前回の東京大会以降、ご夫妻が継続的に関わり続けてこられたことに大きな意味がある」と話す。ご夫妻の障スポ臨席は当初、５年間の予定だったが、以降も毎年会場に足を運び、平成２年以降は天皇陛下に引き継がれている。
１１年、上皇さまご即位１０年を記念し、都内で開かれた障害者の陸上大会では、ご夫妻が客席からグラウンドに降り、選手らをねぎらわれた。「さまざまな大会へ臨席を重ねる中で知り合われた方も多かったのだろう。ご夫妻はスッと輪に入られ、選手の家族の一員のようだった」（渡辺氏）。
ご夫妻の思いは他の皇族方にも受け継がれた。「おめでとうございます」。平成１０（１９９８）年の長野冬季パラリンピックのアルペンスキー男子回転金メダリスト、志（し）鷹（たか）昌浩氏（５９）は大会後、皇居での茶会で陛下から声をかけられた。志鷹氏は長野パラリンピック以前、車いすバスケットやチェアテニスにも挑戦。こうした大会などには陛下をはじめ寛仁親王殿下、常陸宮さまも訪問されており、年が近い陛下には特に親近感を抱いていたという。志鷹氏は「今でこそ企業のサポートを受け、競技に専念できる選手も出てきたが、その間、皇族方にはずっと見守り続けていただいた」と話す。
海外の王室に詳しい関東学院大学の君塚直隆教授によると、障害者スポーツに特化した王室の関わりは限定的だが、英国では王室メンバーが障害者福祉やスポーツ関連団体を立ち上げるなど主体的な関与もみられる。君塚氏は「憲法の制約がある中、皇室もより積極的に発信をしていけば、障害者スポーツに関心の薄い人たちをさらに引き付ける機会になる」と指摘。パラリンピックサポートセンターの小倉氏は「天皇、皇后両陛下なら、上皇ご夫妻が築かれた障害者スポーツの基盤を、国際的に展開されることができるのではないか」と期待を込めた。
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February 24, 2020 at 03:43PM
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