スポーツ社会学という専門分野があることを初めて知った。スポーツと社会の関係を探る学問のようだ。本書『スポーツクラブの社会学』(青弓社)は、そのスポーツ社会学を大学で教える教員たちによる共著。編集作業の最終段階で、新型コロナウイルスによる2020年東京オリンピック・パラリンピック延期が決まったので、そのことについても若干触れられている。
コートの「中」と「外」
2019年はラグビーのワールドカップが大いに盛り上がった。野球、サッカーに加えて、日本人が大いに関心を持つスポーツが一つ増えた感じだ。このほかマラソン、ゴルフ、水泳、卓球、テニス、フィギュアスケートなど人気スポーツはいろいろある。
さらには柔道、剣道、バスケットボールなども含めて、地域に根づいたクラブスポーツも少なくない。一方で、こうした「クラブ」は閉鎖的な組織運営や組織役員の高齢化、勝利至上主義、体罰などの問題点が指摘されることも多い。セクハラ、パワハラにも事欠かない。スポーツを日常的に楽しむために何が必要なのか。
本書は、副題に「『コートの外』より愛をこめ」とあるように、コートの「中」と「外」という視点を軸にして、地域のコミュニティ型のクラブ文化を問い直している。要するに立派な施設ができても、それだけではスポーツを楽しめる環境が整備されたことにはならないというわけだ。「コートの中」と「コートの外」とのバランスを重視する。
「まえがき」を書いている水上博司氏は1965年生まれ。日本大学文理学部教授。共編著に『スポーツ・コモンズ』(創文企画)、共著に『スポーツプロモーション論』(明和出版)など。このほか、谷口勇一・大分大学教育学部教授、浜田雄介・京都産業大学現代社会学部講師、迫俊道・大阪商業大学公共学部教授が分担執筆している。
恩師の旧著も復刻再録
全体は、「第1部」が「スポーツクラブの社会学」。「序章 『コートの中』と『コートの外』からスポーツクラブを問う 水上博司」、「第1章 『コートの外』空間におけるクラブワークをめぐる『ゆらぎ』――なぜ、総合型地域スポーツクラブの理念は必ずしも現実と一致しないのか 谷口勇一」、「第2章 トライアスロンにみるスポーツ空間の『ゆとり』――市民スポーツ/地域スポーツはいかにして『スポーツになる』のか 浜田雄介」、「第3章 『待つ』行為における『さぐり』――『共育』コーチングとして指導者に求められるのはどのような姿勢か 迫俊道」、「第4章 語らいと熟議がもたらす『つながり』――これからのミーティング空間に求められるのはどのようなコミュニケーションか 水上博司」という構成。「ゆらぎ」「ゆとり」「さぐり」「つながり」などのひらがなをキーワードにスポーツと社会との関係を解きほぐす。
フィールドワークやインタビューから総合型クラブの実情を確認したうえで、ゆとりを重視するスポーツ大会運営、指導者と学習者がともに学ぶコーチングのあり方、熟議を重視する人々のつながりなどの重要性を指摘している。
「第2部」は「『コートの外』より愛をこめ[復刻]――スポーツ空間の人間学 荒井貞光」。これは、スポーツ社会学者で、広島大などで教えた荒井貞光氏(故人)が1987年に刊行した同名書の主要部復刻。「スポーツをする条件が整っていたとしてもなぜスポーツが楽しめないのか」という問題意識に基づいて書かれたもの。「コートの中」と「コートの外」を区別して分析する視点による論考の嚆矢だ。「第1章 スポーツ空間論の試み」と「第2章 豊かなスポーツ空間の創造」に分かれている。ちなみに「第1部」の筆者4氏はいずれも荒井氏の門下生。
スポーツのあるべき姿を考える
東京五輪の開催延期は、五輪だけでなく各種スポーツにも甚大な影響を及ぼしている。数多くの大会が中止になり、学校の休校などが輪をかける。この後どうなるのか。「ウイルス感染の恐怖が過ぎ去れば、既存のスポーツシステムが再び機能し始めるのか、それともこの難事に向き合うことで既存のスポーツシステムの限界を自覚し、新たなスポーツシステムを探求するのか」と本書は問いかける。
本書が記すように、コロナ騒動をめぐる延期までのプロセスは、「五輪至上主義のスポーツシステムが政治と経済のパワーゲーム」であることを再認識させたことは確かだ。一方で、来年再開された場合には、再び政治と経済によって持ち上げられ、「世界的危機」を乗り越えたということで、さらなる高揚感に包まれるのかもしれない。本書は記す。
「『東京2020』と『東京2021』のパワーゲームの渦中にいながらも、日本のスポーツ界は、生活のなかのスポーツの豊かさとは何か、スポーツの公共性とは何か、を鋭く問う姿勢を忘れてはならない」
本書が「スポーツのあるべき姿を描くヒントになってくれることを願っている」と書いている。
BOOKウォッチではスポーツ関連書を多数紹介している。地域スポーツ関連では、『ジュニアスポーツコーチに知っておいてほしいこと』(勁草書房)、『子どもとスポーツのイイ関係』(大月書店)、『「地元チーム」がある幸福』(集英社新書)など。1964年の東京オリンピック関係では、『オリンピックと鉄道』(交通新聞社新書)、『近代東京の地政学』(吉川弘文館)、『1964 東京オリンピックを盛り上げた101人~今蘇る、夢にあふれた世紀の祭典とあの時代~』(ユニプラン)、『アフター1964東京オリンピック』(サイゾー)など。五輪史では『日本初のオリンピック代表選手 三島弥彦――伝記と史料』(芙蓉書房出版)、スポーツ全般では『スポーツでひろげる国際理解〈3〉国境をこえるスポーツ』(文溪堂)、『スポーツ映画トップ100』(文春新書)、『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)、『WHO I AM――パラリンピアンたちの肖像』(集英社)など。2020年東京五輪では『選手村マンション「晴海フラッグ」は買いか?』(朝日新聞出版)など。韓国・朝鮮との関係では『評伝 孫基禎――スポーツは国境を越えて心をつなぐ』(社会評論社)、『近代日本・朝鮮とスポーツ』(塙書房)、『無冠、されど至強――東京朝鮮高校サッカー部と金明植の時代』(ころから刊)なども取り上げている。
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May 06, 2020 at 04:33AM
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