IT分野で発展した国と
そうでない国に競争力の格差
最近、2020年1~3月期の主要企業の業績が発表され、コロナ禍の渦中での各国の主要企業の収益状況が明らかになりつつある。その中で、わが国と欧州の主要企業の業績が前年同期比で7割から8割減と大きく落ち込む一方、5Gや通信分野に強みを持つ米国や中国では企業の純利益が前年同期比で4割程度減少と健闘していることが注目される。
現在、世界的にテレワークや巣ごもり消費の増大から、多くの主要国で通信量が顕著に増加している。それに伴い、米・中のサーバー需要獲得競争が一段と激化している。米国GAFA、中国BATHのようにIT先端企業の収益力は、経済の落ち込みをカバーすると同時に、アフターコロナの変化に対応するために一段と重要性が増している。
一方、自動車、汎用機械、素材などに相対的な優位性を持つわが国では、企業の利益が同78%減だった。世界的に見て日本経済はかなり厳しい状況にある。わが国は“ものづくり”に強みを持つが、5Gやスマホ分野などでの競争力は十分ではない。加えて、感染対策が後手に回り、GDPの60%程度を占める個人消費が落ち込んでいる。
コロナショックの発生によって、世界全体で人の動線が遮断され、経済は大きく混乱している。回復にはかなり時間がかかるだろう。4~6月期、米国の経済成長率はマイナス20%超に落ち込むとみられ、その後も世界経済の停滞は避けられないだろう。
今後、IT先端分野を中心に力を発揮してきた経済と、そうではない国の差がこれまで以上に明確化するはずだ。今後、5G通信関連を中心にIT先端分野の需要は徐々に高まるとの見方は多い。わが国はそうした変化に対応するために、産業構造を転換することを考える必要がある。
コロナ禍の経済状況と
わが国の産業構造
コロナ禍の真っただ中、世界経済のファンダメンタルズは全体として悪化している。個人消費を中心に世界経済を支えてきた米国では失業が急増している。シカゴ地区連銀のエコノミストは、コロナショックによる雇用喪失を加味して4月の失業率を計算すると25.1%から34.6%の間に位置すると推計している。
その中、各国の産業構造の特徴によって、経済の状況にかなりの違いが出ている。世界的に、自動車の需給は大幅にだぶついている。汎用機械、化成品などの業況も厳しい。自動車、汎用機械などはわが国の得意分野だ。米国では、航空機および航空業界の先行き懸念が高まっている。当面、航空需要が戻らないとの見方から著名投資家のウォーレン・バフェット氏は米国の大手航空株をすべて手放した。
一方、5G通信やデータセンター関連を中心にIT先端分野の成長は続いている。ある意味、コロナショックがIT先端分野における米国のGAFAや中国のBATHの取り組みを加速化させている。感染対策のために人の外出制限が徹底された結果、高速通信やデータ処理へのニーズが加速度的に高まった。それが、世界的なデータセンターの増強、5G通信の拡大の背景にある。オンラインでの学習や、ドローンを用いた物流や社会の監視には、高速かつ安定した通信体制の整備が欠かせない。この分野で米中の競争力は高い。わが国はIT先端分野への対応が遅れている。
以上の状況をまとめると、次のようになるだろう。
IT先端分野で競争力を発揮してきた米国と中国は、アフターコロナを見据えた取り組みの先頭を走っている。台湾がそれに続く。台湾はトップの強いリーダーシップによって感染を食止め、IT先端分野の変化を追い風に変えている。1〜3月期、台湾積体電路製造(TSMC)の純利益は前年同期からほぼ倍増した。
それに次いで、韓国ではスマホやメモリチップ分野でサムスン電子やLG電子が健闘している。韓国が感染の拡大を抑えたことは経済活動にプラスだ。対照的に、ITよりも自動車、汎用機械などの製造業で競争力を発揮してきたわが国やドイツを中心とする欧州各国の業況は相対的に厳しい。
アフターコロナで
米・中の対立激化懸念
ここへ来て米国と中国の対立が激化している。2018年以降の米中の通商摩擦は新たな段階に突入し、米国がけん引してきたグローバル化は大きな転換点を迎えた。
まず、米国は新型コロナウイルスの発生の責任が中国にあると主張している。ポンペオ国務長官は、武漢にある研究所から新型コロナウイルスの感染が拡大したと中国への批判を強めている。また、ナバロ大統領補佐官は中国が質の低い医療資材を各国に提供して不当に利益を得ていると対中強硬姿勢を強めている。
また、米国は5G通信機器で世界トップシェアを誇るファーウェイへの制裁を強めている。コロナ禍への対応で明らかになったように、5G通信、それに対応したIoT機器などの開発と実用化は、今後の世界経済を支える大きな原動力の一つだ。米国はその分野で中国が主導権を握ることは何としても阻止しなければならない。それは、米国の政治・経済力だけでなく、安全保障をも左右する。感染拡大によって経済活動が大きく停滞してしまっただけに、対中批判を強める以外にトランプ政権が支持を獲得する手段は見当たらないと指摘する米国政治の専門家もいる。米国の自国主義はさらに強まり、韓国など輸出依存度の高い経済は、より強い逆風に直面するだろう。
ただ、米国は中国に対して制裁関税や禁輸措置などの大きな制約を課してきたが、うまくはいっていないのが現状だ。すでに、欧州委員会や英国政府は5G通信機器導入においてファーウェイの製品を容認する方針を出している。更に、アジア、アフリカ地域などでもファーウェイの製品が浸透し始めている。
その上、中国は新興国などに対して積極的に医療・公衆衛生面なども含めた支援を行っている。その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大の責任が中国にあるといった対中感情の悪化を食い止め、国際世論における発言力の維持・強化につなげる狙いがあるはずだ。そのように考えると、“一帯一路(21世紀のシルクロード経済圏構想)”沿線国に対する中国からの支援は強化されるだろう。それに伴い、米中のコンフリクトは一段と激化する可能性が高い。
今後、わが国が
目指すべき改革の道
コロナショックによって世界全体で人の動線が遮断・寸断された影響は非常に大きい。それによって、人々が外出しなくてもできるだけ快適に過ごすことを重視し始めている。言い換えれば、わが国が強みを発揮してきた自動車、各種部品や素材産業の回復には時間がかかる。
これまでの産業構造を維持し続けた場合、わが国の経済は米中を中心とするIT先端分野などでの新しい取り組み、それによる変化に取り残されてしまう恐れがある。仮にその展開が現実のものとなれば、内需の低迷には拍車がかかり、経済と社会全体でかなりの閉塞感が広がるだろう。
歴史を振り返ると、疫病との戦いは世界経済を大きく変えた。14世紀に世界を襲ったペストは、欧州における封建制度の崩壊を通して教会の影響力を低下させ、ルネサンスにつながった。1918年に発生したスペイン風邪は、第1次世界大戦の終結を早めたとの見方がある。コロナショックを受け、米国では産学連携などを起点に、大学が開発したフェースシールドを自動車メーカーが生産するなど、部分的にオープンイノベーションが起きている。中国では、国家資本主義体制の下で経済活動だけでなく医療などのデジタル化が進んでいる。
ある意味、わが国はコロナショックをチャンスに変えなければならない。これまでの発想や価値観にとらわれずに、新しい取り組みを積極的に進めなければ世界全体の構造変化に遅れてしまう。感染を早期に食い止めた韓国でさえ、鉄鋼、金融、石油化学、航空など在来分野の業況は悪化している。感染対策が後手に回ってしまったわが国は、内需、外需の両面においてそれ以上に厳しい状況を迎えていることを直視しなければならない。
わが国の政府は今後の経済運営をどう進めるか、国としての基本方針を固めるべき時を迎えている。5Gやデータセンター関連の新しい機器や基盤などの部材開発と生産に向け、産学連携の強化や専門知識と技術を持つ人材が活躍できる環境の整備は急務だ。政府は基礎分野での新しい取り組み推進に向けて、規制緩和や構造改革を大胆に進める必要がある。今後、わが国がそうした課題をいかに乗り越えることができるか、今、大きな岐路に立たされている。
(真壁昭夫:法政大学大学院教授)※この記事は2020年5月12日に公開されたものです。"競争" - Google ニュース
May 30, 2020 at 05:57AM
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