総務省の「競争ルールの検証に関するWG(ワーキンググループ)」では、端末購入補助の見直しが進められています。23年12月に、割引の上限が税込みで4万4000円に緩和されたのと同時に、回線単体への割引にも規制がかけられました。
その特例として、現在検討されているのが「ミリ波対応端末」への割引です。現状はまだ報告書案が出た直後の段階で、正式決定したわけではありませんが、方向性が示されたこともあり、実現の可能性は高まっています。
これが決まれば、ハイエンド端末の中の一部を今まで以上に割り引くことが可能になります。ここでは、どのような背景でミリ波対応端末への割引拡大が検討されているのかを解説するとともに、実例で価格の違いを見ていきます。
最大4万4000円に1万6500円を増額、トータル割引額は6万500円に
ミリ波帯とは、30~300GHz前後の周波数帯を指す言葉で、日本では28GHz帯がこう呼ばれています。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社に割り当てられており、帯域幅が非常に広いのが特徴。一方で電波の直進性が高く、エリアが限定されていることから、対応端末も限られています。ハイエンドモデルの中でも、特にスペックの高い機種が対応しているのが現状と言えるでしょう。
このミリ波対応端末に限って、割引の上限を拡大し、普及を促進しようという案が浮上しています。
今の端末購入補助は、8万8000円の端末は4万4000円まで、4万4000円から8万8000円までは価格の50%を上限にしており、4万4000円以下の端末は2万2000円がその上限になります。何やらキャリアの段階制料金プランのようですが、この上に、ミリ波対応端末が加わる形です。
と言っても、仕組みはシンプル。今の割引上限は4万4000円ですが、ここに1万6500円を加えようというのがその趣旨になります。合計した時の割引上限は、6万500円になります。
ただし、価格の50%までという制約はここでも加わります。仮に8万8000円のミリ波対応端末があった場合、上限はその50%の4万4000円になるということ。12万1000円以上だと、上限いっぱいの6万500円を割り引くことが可能になります。
ただし、ミリ波対応端末は一般的に高額になりがち。ハイエンドモデルの中の特にスペックが高い端末に搭載されることが多いからです。
直近に発売されたモデルでも、たとえばサムスン電子の「Galaxy S24 Ultra」はドコモオンラインストアで21万8460円。ソニーの「Xperia 1 VI」も20万9440円で販売されており、いずれも6万500円の上限いっぱいまで割り引くことが可能になります。
実質的には、ミリ波対応端末への割引が1万6500円積み増せるようになると捉えて問題はなさそうです。
ミリ波端末が普及しないのは高価格なせい? 金額根拠は差額にあり
過度な端末の割引競争になるという理由で設けられていた規制を緩めてまで、ミリ波対応端末を優遇したいのは、この周波数帯が実際にはあまり利用されておらず、エコシステムができていないからです。
その一因と言えるのが、端末の普及率の低さ。調査会社MM総研が2月に発表した国内携帯電話端末の出荷台数調査では、ミリ波対応スマホの割合が全体の5.2%と推計されています。ユーザーの手に、端末が行き渡っていないと言えるでしょう。
これは、先に挙げたようにミリ波対応端末がハイエンドモデルの一部に限定されているためです。GalaxyやXperiaのように20万円を超えるのが一般的。価格が10万円を下回るミドルレンジモデルが主流になっている中、トップオブトップと言えるハイエンドモデルを手にする人は少なくなっているのが現状です。
また、日本では特にシェアの高いiPhoneシリーズも、ミリ波には対応していません。
割引額を上げることで端末の実質価格を抑え、よりユーザーが手に取りやすい価格にするというのがその狙いと言えるでしょう。こうした事情もあるため、ミリ波対応端末への割引増額は、一定のシェアを超えるまでの時限的なものと位置づけられるようです。
総務省で挙げられている数値は、普及率50%。ただし、現状ではiPhoneがミリ波に非対応のため、Androidがほぼほぼ全機種対応したとしても達成はほぼ不可能です。逆に言えば、割引額を上げ、アップルへの対応を促す狙いもありそうです。
では、1万6500円という増額は何を根拠に算出されたのでしょうか。その答えは、同一モデルでミリ波に対応した端末とそうでない端末の差額です。
先に挙げたXperia 1 VIは、キャリア版がミリ波対応な一方で、ソニーが直接販売するメーカーモデルは非対応。シャープの「AQUOS R8 pro」は、ドコモ版のみミリ波に対応しています。
総務省では、この差額の平均を取っています。Xperia 1 VIは税抜きで1万7740円、AQUOS R8 proは1万5890円といった具合で、その額は平均すると約1万7000円になるとのこと。
この数値を元に、ミリ波対応端末の割引特例を税抜きで1万5000円に設定しています。ミリ波を搭載することによる負担を、キャリア側に認めるような仕組みと言えるでしょう。
現行モデルに適用されると価格はどう変わる? 買いやすくなるのは確かだが……。
実際、ミリ波に対応するためにはコストアップが避けられないと言われています。チップセット自体は同じでも、アンテナを追加で搭載しなければならず、端末のデザインにも影響を与えます。
特にミリ波の場合、手でふさいだだけで電波がさえぎられてしまうため、ユーザーの持ち方が縦横で変わることを踏まえ、複数個所に実装されるのが一般的。同じ5Gでも、特に実装コストがかかる周波数帯と言えそうです。
割引が増額されるのであれば、ミリ波搭載による価格アップが避けられるため、メーカー側は積極的に対応する理由になります。
ただし、キャリア側が割引額をどう設定するかは別問題。実際、割引の上限が4万4000円になった際にも、満額まで割引されない端末もあったため、この負担をキャリア側がどう考えるかにもよりそうです。とは言え、その選択肢が増えるため、ミリ波対応端末の導入はしやすくなることにはなりそうです。
では、仮に上限いっぱいまで割引額が適用された場合、現状のミリ波対応端末はどの程度まで価格が下がるのでしょうか。
ドコモオンラインストアでミリ波に対応している現行モデルで、その金額を算出してみました。まず、先に挙げたXperia 1 VIは端末の総額が20万9400円。仮に割引が6万500円出たとすれば、本体価格は14万8900円まで下がります。
また、「いつでもカエドキプログラム」の24回目の残価が4万8840円に設定されているため、端末を返却すれば実質価格は10万60円まで下がります。
それでも月々の負担は4000円強になるため、決して安いとは言えませんが、残価を引いても16万600円の今と比べれば買いやすいと言ってもいいかもしれません。
もう少し元々の価格が安いミリ波対応端末には、グーグルの「Pixel 8 Pro」があります。こちらの256GB版は、本体価格が19万8000円。6万500円の割引があったとすると、13万7500円まで価格は下がります。
いつでもカエドキプログラムの残価は6万2040円に設定されており、23カ月目に返却すれば実質価格は7万5460円まで下がります。
Xperiaより本体価格が安く、残価が高めのため、割引があったときの値ごろ感は高まります。残り23回の分割も3000円強で済み、買いやすくなると言えそうです。
一方で、ユーザーはミリ波に対応しているから端末を買うわけではありません。総務省の報告書でも触れられていますが、今はユースケースに乏しい状況。ミリ波のエリアも狭く、ユーザーがメリットを享受できる機会がかなり限定されています。
鶏が先か卵が先かの問題ですが、何らかのメリットがなければミリ波端末を選ぶモチベーションは高まりません。そのきっかけを作る意味でも、最初はもう少し割引額を積み増してもよかったのでは……という気がしました。
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