阪神高速道路会社は6月から新しい料金体系を導入する。対距離制を適用する走行距離を約6割延ばし、それより先の一律上限料金は5割ほど増やす。通年ベースで80億円程度の増収を見込み、約60億円を都心部の渋滞緩和を狙った迂回割引などの原資とする。約20億円は自治体からの要望が強い淀川左岸線2期などの整備に充てる考えだ。
阪神高速はもともと3エリアの定額制だったが、公平負担の観点から2012年に走行距離に応じて料金を設定する対距離制を導入。17年6月に現在の料金体系となった。長距離利用の激変緩和措置として、対距離制は32.3キロメートルまでとし、それを超えた場合は普通車で1320円の上限料金を設定している。
6月からは対距離制を51.7キロメートルまで延ばす。上限料金は普通車で5割近く高い1950円に引き上げる。吉田光市社長はこれまでより負担が増える割合を「全体の利用者の約1割」と見積もる。
同様の取り組みは、首都高速道路会社が先行している。22年4月、対距離制を35.7キロメートルから55.0キロメートルまで拡大。普通車で1320円の上限料金を1950円に引き上げた。料金収入は増えており、上限料金の引き上げに加えて「新型コロナウイルス禍からの社会経済活動の正常化に伴う交通量の増加が主な要因」とみている。
阪神高速道路の交通量は23年度時点で新型コロナ禍前の水準にほぼ回復している。上限料金の引き上げにより、通年ベースで80億円程度の増収を見込む。このうち約60億円を投じるのが新たな割引制度だ。
目玉の一つが、大阪、神戸の渋滞緩和を狙った都心迂回割引。西日本高速道路会社と連携し、起点と終点との間の最安料金と同額にする。吉田社長は「ネットワークを賢く使うことを料金面からサポートする狙い」と話す。
例えば、大阪府の4号湾岸線の助松(泉大津市)から東大阪線の中野(東大阪市)に向かう場合、大阪都心部経由で普通車の料金は1460円、都心を迂回する西日本高速の近畿自動車道経由の場合、1800円それぞれかかる。6月からは経路に関係なく1460円になる。
交通量が少ない深夜時間帯への交通を分散するため、深夜割引も導入する。午前0時から午前4時までに阪神高速に流入する車が対象だ。割引はこのほか、大口や多頻度の割引率の拡充などに取り組む。
増収分の残りの約20億円は、自治体からの要望が強いミッシングリンク(連続性が欠けた部分)の道路の整備にあてる考えだ。
その1つが大阪市と阪神高速が共同で事業を進める淀川左岸線2期。此花区高見―北区豊崎の延長4.4キロメートルで、全体事業費は約3052億円に上る。これまで阪神高速の負担は95億円だったが、595億円に引き上げる。大阪市は「市の負担が減るため、事業が進めやすくなる」とみている。
国土交通省が兵庫県西宮市で事業を進めてきた名神湾岸連絡線(延長2.7キロメートル)について、阪神高速は24年度から西日本高速とともに事業に加わる。阪神高速は事業費のほぼ半分にあたる500億円を負担する。名神高速から阪神高速3号神戸線の交通を阪神高速5号湾岸線に転換させる役割がある。国交省は阪神高速などが加わることで、事業促進に期待をかける。
(石黒和宏)
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