観光庁「Go To は状況次第」
政府は、都道府県を実施主体に全国から誘客できる新たな観光需要喚起策を7月前半に開始する。事業の通称は「全国旅行支援」。地域ごとの感染状況に対応しやすい「県民割」と、全国規模で支援が手厚い「新たなGo Toトラベル」の特徴を兼ね備えた制度とした。地域ブロックにとどまらない遠距離の旅行を促進し、交通事業者などへの支援も強化できるよう交通付き旅行商品の割引上限額を有利に設定。需要分散化に向けては、平日のクーポン付与額を休日より高くした。期間は当面、8月末まで。全国旅行支援の実施後、さらにGo Toトラベル事業を実施するかは未定だ。
新たな観光支援策については、岸田文雄首相が15日夕、通常国会の閉会を受けた記者会見の中で実施を表明。コロナ禍に対して平時に近い経済社会を取り戻す必要があるとして、「地域観光をよりいっそう強力に支援するため、全国を対象にした観光需要喚起策を実施する」と述べた。
17日には、斉藤鉄夫国土交通相が新たな観光需要喚起策について、「コロナ禍が長期間にわたり、地域の観光・交通関係者が本当に苦しんでいる。ポストコロナに向けて、観光が大きな経済の柱にならなくてはいけない。その大きな流れをつくることができるよう全力で取り組んでいきたい」と意欲を示した。
新たな観光需要喚起策となる全国旅行支援は、新型コロナウイルスの6月中の感染状況を見極めた上で7月前半から開始する。具体的な開始日は未定。観光庁では、できるだけ都道府県がそろってスタートできるようにしたい考え。最繁忙期のお盆期間は割引対象から除外するが、具体的な期間は決まっていない。一方で、現行の県民割(地域ブロック割)事業は、6月末が期限だが、7月14日宿泊分まで延長し、全国旅行支援に移行できるようにする。
全国旅行支援は、国の補助金を受けて都道府県が実施するという点では県民割事業と同じだが、誘客に関して旅行者の出発地の都道府県の了解を得る必要はなく、Go Toトラベルと同様に全国からの誘客が可能になる。一方で、国を実施主体とするGo Toトラベルと異なる部分は、地域の感染状況の悪化を理由に都道府県が独自の判断で事業の開始を見送ったり、誘客を停止できることだ。
割引などの支援内容については、観光庁が当初、県民割事業に続いて開始を計画していた「新たなGo Toトラベル」事業の考え方が反映されている。具体的な内容は、割引率が40%、1泊当たりの割引上限額が交通付き旅行商品で8千円、宿泊だけなどが5千円。旅行先の土産物店などで使えるクーポンの付与額は、平日が3千円、休日が千円。
支援の考え方について観光庁の和田浩一長官は17日の会見で、「地方への観光に対する配慮、旅行需要の分散化といった観点から、鉄道、バス、航空などの交通付き旅行商品の割引上限額を引き上げたり、クーポン券の金額に平日と休日で差を付けたりするなどの措置を新たに講じている」と説明した。また、団体旅行や貸し切りバスの需要低迷を踏まえ、貸し切りバス支援の専用給付枠を設ける方針だ。
実施主体の都道府県が、全国旅行支援の事業事務を担う。事業者の登録や精算の方法など、運用の仕組みは、現行の県民割事業で都道府県が運用している枠組みを生かす方向。ただ、都道府県外の旅行業者の情報など、全国から誘客する際に必要となる新たな情報などは、国が設置しているGo Toトラベル事務局が側面から支援するという。
制度の詳細については、観光庁が近く発表する。利用者の要件には、県民割事業と同様に、ワクチン3回目接種歴や検査の陰性結果を設定する予定。また、予約・申し込み済みの旅行への割引適用の対応なども説明する。
全国旅行支援の財源には、都道府県版の「新たなGo Toトラベル」事業向けに確保していた国費約5600億円を充てる。都道府県に対しては、すでに宿泊実績などを加味して予算を配分済み。県民割事業の財源となっている地域観光事業支援の予算約3300億円のうち、残っている予算も使う。
国のGo Toトラベル事業の予算額は、全国旅行支援のために都道府県に配分した予算と、2022年度に繰り越しができず国庫に返納される不用額約7200億円(未確定)を除いて、国を事業主体に実施する予定だった「新たなGo Toトラベル」事業のための予算分として約2700億円が残っている。
全国旅行支援の当面の実施期間は8月末までだが、その後の観光需要喚起策の在り方については決まっていない。観光庁の和田長官は「Go Toトラベル事業などを含む今後の観光需要喚起策については、感染状況、観光需要の動向を踏まえ、臨機応変に対応していく。いつの時期に向けて検討するとは決まっていないが、今後の状況を見ながらだ。Go Toトラベルはもうやらないというわけではない」と述べた。
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