2020年07月12日09時01分
◆ノンフィクションライター・松瀬 学◆
必然である。新型コロナウイルスの感染拡大で、来夏に1年延期された東京五輪・パラリンピックについて、大会組織委員会と国際オリンピック委員会(IOC)との間で「簡素な大会とする」との基本原則を定めた。
数千億円とされる追加負担を考えると、これ以上の経費拡大は、開催そのものを危うくするからだろう。
◆共感を与えるかどうか
五輪の肥大化は、とどまるところを知らない。6月10日のIOC理事会後のオンライン会見。コスト削減が今後の五輪のモデルケースとなるのか、と聞かれると、大会組織委の森喜朗会長は「これからのオリンピックの在り方はこうなんだと大上段に構えているわけではありません」と前置きし、こう答えた。
「新型コロナウイルスによって、世界中が大きな混乱を起こし、多くの犠牲者を出しています。そういう中で、従来通りの派手な、華美なお祭り騒ぎが、多くの人に共感を与えるかどうかを考えないといけない。(コスト削減で)あの時の(東京)オリンピックが基本的に正しい大会だったと評価してもらえればいいのです」
夏のオリンピック大会を現場で取材し続けて30年余、「肥大化五輪はもう限界」と何度、書いてきたことだろう。だが、右肩上がりのスピードこそ鈍りながらも、オリンピックの規模は、大きくなり続けてきたのだった。
◆クーベルタンのコトバ
近代五輪の始まりは、1896年アテネ大会だった。「オリンピックと商業主義」(集英社新書、小川勝著)によると、「1908年ロンドン五輪の開催にかかった経費は1万5214ポンドだった。これは当時のレートで約15万円に相当する」とある。
また、中森康弘氏の論文「第31回オリンピック競技大会国内立候補都市選考における戦略的研究」(2007)には、近代五輪の創始者、ピエール・ド・クーベルタン元IOC会長の興味深いコトバが引用されている。
1911年4月のIOC発行のオリンピック・レビューにおいて、同氏はこう、記述している。
「最近の国際オリンピック大会では、しばしば、過大な経費がかかっていて、その相当部分が不要な恒久建造物を建設するための経費であるとしたら、それはきわめて遺憾なことである(暫定建造物で十分間に合うだろうに、必然的な成り行きとして、民衆を引き寄せる行事数を増やしてそうした恒久建造物の使用を図ることになる)。そうした経費がオリンピック競技大会を将来主催しようとする小国の意欲をくじくとしたら、それは極めて遺憾なことである」
◆招致時は「コンパクト五輪」
日本オリンピック委員会(JOC)のホームページを調べると、64年東京オリンピックの経費は、組織委員会経費の99億4600万と、大会競技施設関係費の165億8800万円との合計265億3400万円だった。これには、関連事業としての道路整備や東海道新幹線などの事業費は含まれていない。
今回の2020年東京五輪・パラの大会経費は、招致時には7340億円と見積もられていたが、その後、1兆3500億円に膨れ上がった。
計画では、組織委と東京都が約6000億円ずつ、国が1500億円を負担することになっていた。このほか、大会関連経費として、東京都は約7800億円を負担する。もちろん、時代によって貨幣価値が異なるため、単純比較は意味がないが。
そもそも、東京五輪・パラは、経費も使用施設も「コンパクト五輪」をうたって招致した。だが、いつものごとく、経費拡大が続き、新型コロナ禍で原点に立ち返ることになった。
組織委はこのほど、「21年開催に向けた方針」として、次の3点を示した。
(1)選手、観客、関係者、ボランティア、大会スタッフの安全・安心を優先する
(2)延期費用を最小化し、都民・国民から理解と共感を得られるものにする
(3)安全かつ持続可能な大会とするため、大会を簡素(シンプル)なものとする
一番大事なことは、選手や国民の支持を得られるかどうか、である。新型コロナ禍の状況もあろうが、組織委がこの方針を通すことができなければ、東京五輪・パラリンピックは、開催断念に追い込まれることになる。(2020年6月17日記)
(時事通信社「金融財政ビジネス」より)
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July 12, 2020 at 07:01AM
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