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菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシーvol.28(菊地慶剛) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

 自分が本格的にスポーツライターとしての活動を開始したのは、野茂英雄投手がドジャースに移籍した1995年です。渡米後3年目のことでした。そこから今年3月まで22年間、MLBの取材を続けてきました。

 今年4月に24年間の米国生活を終えるまで、まったくNPBに触れる機会がなったわけではありませんでした。一応日米野球やWBCなどの取材経験があります。しかし基本的には相手チーム側の取材を担当していたので、実質的にNPBの現場を取材するのは今シーズンが初めてです。つまり自分の野球取材の根幹はMLBでの経験がすべてであり、NPBに対する自分の視点は日本人というよりもむしろ、外国人選手にかなり近いと思います。

 そんな人間が現場取材を続ける中で、やはり多くの面で“日米格差”を感じています。最近は日本でも多くのMLB情報を入手できるようになりましたが、それでも日本の野球ファンの皆さんが、自分が感じているような格差を明確に理解するのはなかなか難しいのではないでしょうか。

 そこでそんなディープな情報を欲している一部の読者に向け、有料記事というかたちで自分が感じた格差をトピック別に紹介していくことを目的に、このレポートを立ち上げることにしました。

 念のためお伝えしておきますが、あくまで読者の皆さんに違った“視点”や“価値”を知って欲しいことが目的であり、NPBを真っ向から否定するつもりはないということをご理解ください。

 記念すべき第1回はまず「シートノック」について考えてみたいと思います。

 皆さんが野球観戦のため球場入りする頃は、ビジターチームの打撃練習が終わりかけの頃だと思います。なので皆さんが試合前にしっかり見学できるのは、両チームのシートノックではないでしょうか。自分がここまで現場取材をしてきた限りにおいて、試合前のシートノックを実施しなかったチームは1チームも存在しません。実はこのこと自体が、自分にとっては大きな驚きでした。

 というのも、逆にMLB(マイナーも含め)では試合前にシートノックを行うことはほとんどないからです。シートノックはあくまで連係プレーの確認のようなものです。もちろんキャンプ中は基本練習として重要視していますが、シーズンに入ると月に数回やる程度です。それも打撃練習前に投手と一緒に行い、NPBのように別枠でシートノックの時間をつくることはしません。

 もちろん各個人の守備練習はしっかりやっています。打撃練習中の時間を有効に使い、コーチ相手に自分の好きなだけノックを受けることができます。中にはコーチにお願いして全体練習前に個別にノックを受ける選手もいるくらいです。この点に関してはNPBも同様です。打撃練習中にしっかり個別でノックを受けています(ただチームによっては外野手は打撃練習中にノックを受けないケースも見受けられます)。それでも試合前には必ずシートノックを行っているのです。

 高校や大学なら試合を行う球場で練習を行う機会が少ないですから、試合前にシートノックを行うのは効果的だと思います。でもNPBの場合、たとえ遠征試合でも年間を通して使用している球場で練習を行っているのですから、グラウンドの状態やクッションボールの跳ね方は熟知しているはずです。地方球場での試合ならまだしも、プロの選手たちが守備練習以外に毎試合連係を確認する必要があるようには思えないのです。

 また打撃練習とは別にシートノックを行うことは多少の弊害があるようにも見えてしまいます。特にホームチームの場合は顕著だと思います。

 ホームチームは打撃練習が終わった後、ビジターチームの打撃練習が終わるまで1時間ぐらいクラブハウスで待機しなければなりません。そして再びグラウンドに戻り、改めてウォーミングアップ、キャッチボールを行った後、シートノックを実施します。そしてシートノック後はまたクラブハウスに戻り、試合前まで30分以上待たなければなりません。結局試合開始前に選手それぞれがまたアップしなければならないことを考えると、シートノックを行うことで、結果として個人の負担を増やしているように感じています。

 その点MLBなら、ホームチームは打撃練習が終了すれば、試合開始までグラウンドに戻ってくる必要がありません。2時間余りの時間を選手それぞれが有効活用できるのです。自分の体調や疲労度を考えて、自分なりの準備や個別練習(MLBは練習量が少ないと言われていますが、実は個々人でしっかり練習しています)をすることができます。長丁場のシーズンを戦う抜く上で体調管理が重要なのは当然のことですが、NPBのようにチームとしての拘束時間が長いと、どうしても個人の裁量が制限されてしまいます。

 このようにシートノックに関して日米格差があるのは、そもそもその根底に練習そのものの捉え方が違うからだと思います。次回以降、また別の観点からいろいろな違いを紹介していきたいと思います。

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June 30, 2020 at 12:57PM
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