約8年にわたって熟成を重ねてきたピュアスポーツ
ピュアスポーツカー・メーカーのロータスが作るコンパクトスポーツカー「エリーゼ」のひとクラス上のモデルが「エキシージ」だ。2012年にシリーズ3へとモデルチェンジし、エンジンがそれまでの1.8リッター直4から、3.5リッターV6へと強化された。
約8年にわたって熟成を重ねてきたエキシージは、現在ベースグレードの「スポーツ350」、今回の試乗車であるハイパワーバージョンの「スポーツ410」、そしてサーキット走行に特化した「カップ430」という3種によるラインアップだ。
久しぶりに対面したエキシージの印象は少し大きくなったなというものだった。といっても全長は4080mm、全幅1800mmと、VWポロ(4060×1750)と大差ないのだが、抑揚のあるボディがボリュームを感じさせる。全高は1130mmと低く、そして車両重量は1110kgと現代のスポーツカーとしては軽い。
ちなみにちょうど1110kgのスポーツカーといえば、アルピーヌA110がある。あちらはハイパワーバージョンのA110Sで292ps。対して、エキシージスポーツ410は、トヨタ製3.5リッターV6エンジンにスーパーチャージャーを組み合わせ、最高出力416ps、最大トルクは410Nmを発揮、最高速は290km/hに到達する。
タイヤの切れ角が手のひらを通じて伝わってくるよう
エンジンスタートボタンを押すと、意外にもあっさり始動する。チタン製のエキゾーストシステムは野太いというよりは高めの音を発する。その回転感からいかにも軽いフライホイールであることが伝わってくる。アルミ削り出しで、内部構造が見える硬質なマニュアルシフトレバーを1速に入れて、ゆっくりとクラッチをミートすると、するすると動き出す。もちろん7000回転までまわして楽しむエンジンゆえ、低速からぶ厚いトルクが出るタイプではないけれど、神経質になるほどではない。
いまどきパワーアシストのないステアリングも動きだしてしまえば、まったく気にならない。その手応えはまさにダイレクトで、タイヤの正確な切れ角が手のひらを通じて伝わってくるようだ。足回りはレースカーなどにも採用される英国のナイトロン製3段階調整式ダンパーを公道用にチューニングしたもの。タイヤは公道も走れるサーキットタイヤを謳う、ミシュランのパイロットスポーツカップ2を履く。
ガチガチな乗り心地を想像していたら、あっさりと覆された。もちろん首都高の目地段差などではドンっと大きな入力はあるが、バシっと一発で収まる。フラットな路面であれば、ほんのわずかなステアリングへの入力で、ぴったりと狙ったラインをトレースするように走ることができる。
直線でぐいっとアクセルを踏み込むと、3000回転を超えたあたりから猛烈に加速する。ダウンフォースが一気に高まり、フロントボンネット上のカーボンファイバー製のフロントスプリッターやリアの大型ウイング、ディフューザーなど、エアロパーツが伊達でないことがわかる。すぐに公道ではこれ以上はヤバいという感覚がこみあげてきた。車重1110kgで400ps超、パワーウェイトレシオ約2.7kg/psは想像以上にすごい。今どき免許がいくらあっても足りなくなる。
唯一気になるのは“速すぎる”こと
ここまですごいと、果たしてエキシージがピュアスポーツカーか否かは議論のわかれるところかもしれない。前編でピュアスポーツカーの定義を、ボディサイズは小さく車両重量は軽く、重心が低く重量配分が最適化されていて、乗車定員は1人もしくは2人で、サーキットのラップタイムなど絶対的な速さよりは、操ることの楽しさを求めるべくマニュアルトランスミッションを採用する、と書いた。エキシージはほぼすべてに該当するのだが、唯一気になるのは“速すぎる”ことだ。もちろん個人の運転スキルにもよるが、サーキットではなく公道において“絶対的な速さよりは、操ることの楽しさ”を得やすいのは、ハイパワーなV6エンジンではなく、より軽量な4気筒エンジンを搭載するエリーゼと言えるだろう。
今後は、ロータスといえども電動化とは無縁ではいられない。2019年には日本でも初のEVスポーツカー「Lotus Evija(ロータス エヴァイヤ)」を公開。2020年には生産開始予定で、価格は200万ポンド(日本円で約2億7000万円)とアナウンスされている。また、ジーリーグループの1つであるボルボのプラットフォームを活用して、ロータス初のSUVを開発中とも言われる。
エリーゼやエキシージといったロータスに乗るたび、ひとりのクルマ好きとして思う。現代において1トンクラスのピュアスポーツを量産し続けていることの奇跡に、感謝せずにはいられない。
文・藤野太一 写真・郡大二郎 編集・iconic
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April 26, 2020 at 07:46PM
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